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特別企画: ノーベル賞候補者リスト!(化学賞編)

化学賞編です。他の賞へは、こちら からどうぞ。


飯島澄男

1991年、カーボンナノチューブ(CNT)を発見。その後の爆発的な研究の発端となりました。現在も、FEDへの応用(齋藤先生@名大他)などが盛んに研究されており、社会へのインパクトも今後ますます大きくなっていくと思われます。もちろん基礎研究も、片浦先生はじめ多くの方々によって行われており、チューブ径に依存した物性変化など多くの興味深い現象が明らかになっているようです。ノーベル賞は時間の問題でしょうか(化学賞かは分かりませんが)。

なお飯島教授は、CNTの発見以外にも、ニオブ酸化物結晶中の金属原子の直接観察、結晶中の点欠陥の原子レベルの分解能での撮影、孤立タングステン原子の撮影、金の原子がアメーバのように動く金超微粒子の「構造ゆらぎ」現象の発見など、「電子顕微鏡のプロ」としてさまざまな成果をあげられているみたいです。 それにしても、「孤立原子の撮影」って…すごいな。電顕恐るべし。

あと、最近ではむしろ「ナノホーン」の方に注目されているみたいです。吸着剤としてけっこう優れているようです。


遠藤守信

化学的気相成長法によるCNTの大量生産技術を開発。「遠藤ファイバー」と呼ばれるこのCNTはリチウム電池などに使用されているほか、電子デバイス等多くの分野で注目を集めている(Wikipedia: 遠藤守信)…のだそうです。因みに信州大の友達によると、毎年ノーベル賞発表の時期にはマスコミがたくさん集まってくるらしいです。なるほど…やっぱり有力候補なんですね。

ところで、上のリンク先に 「1988年、遠藤ファイバーと呼ばれる直径10nm~100nmの多層カーボンナノチューブの商業化が始まった」 とあるんだけど…それでも飯島澄男が発見者ということでいいのかな? うーん、よく分かりません。事情通の方の情報をお待ちしています。


新海征治J. F. StoddartG. M. Whitesides

分子機械、分子自己集合体に関する先駆的な研究に対して。トムソンISIによる予想(2005年)でこの3人が挙げられていました(参考: ケムステニュースの記事)。

新海先生は、「分子機械」および「分子認識」の研究の第一人者。1979年にクラウンエーテルとアゾベンゼンを組み合わせて世界初(?)の分子機械を合成、同定しました。その後も、分子認識、有機ゲル、無機物質への構造転写などの研究で世界をリードされています。
この前、特別講義を聴きましたが…なかなか「濃い」先生でしたw。やっぱこのくらいじゃないと駄目なのかなあ、と思った次第(笑)。

Stoddard 教授 は、分子認識および自己集合をうまく利用して、catenanerotaxane などの複雑な超分子を効率的に合成する手法を見出し、その後の「分子機械」「分子モーター」などの研究に大きく貢献された方です。もちろん現在も活躍されており、Nature-Science の常連のひとりですね(あのNMRの解析を見るといつも目が眩みますw)。 この分野から出るならやっぱりはずせないかなあ、という感じでしょうか。

Whitesides 教授 も、超有名ですね。チオール基を利用した単分子膜(SAM)形成技術、ソフトリソグラフィー法をはじめ、有機分子の自己組織化による膜形成技術(デバイス化に非常に重要)に道をつけた方です。上のリンクをみれば分かるとおり、現在も非常に広い分野で活躍されています(ちょっとありえんくらいですねw)。とにかく、受賞は確実だと思います。間違いなく。

この分野で他に有名な日本人というと、藤田誠北川進相田卓三、…といったあたりでしょうか。そういえばこの前インド人のポスドクさんが 「Susumu Kitagawa と Makoto Fujita はいつかノーベル賞を取るんじゃないか」 と言ってはりましたが…。どうなんでしょうね。 有り得なくはない、のかな。


熊田誠玉尾皓平Robert Corriu

触媒的クロスカップリング反応の発見(1972)。最初は、Grignard 試薬とNi 触媒の組み合わせだったんですね。今はこの「熊田-玉尾-Corriu カップリング」自体を使うことはあまりないかもしれませんが、その後の一大分野の形成の礎を築いたという意味で、とても素晴らしい業績だと思います。

なお、玉尾先生はこの他にも「玉尾酸化」(炭素-ケイ素結合の過酸化水素酸化による切断)や「シロール誘導体の合成」など、ケイ素化学を中心に大きな成果をたくさんあげていらっしゃいます。こちらも有名ですね。

あと、関係ないですが、学部のときに受けた玉尾先生の「有機化学III」の講義は最高に面白かったです。
「化学は面白いですから」 (by 玉尾皓平) …とか、今でもよく憶えてます。(といっても3年前なんですがw)
教育者としてもとても優れた人だと思うので、そういう意味でもぜひ受賞してもらいたいと思っています。


鈴木章、宮浦憲夫

Suzuki-Miyaura Coupling (塩基存在下、Pd 触媒により芳香族ホウ素化合物とハロゲン化アリールとをクロスカップリングさせる反応)の開発(1979-)。水や空気に安定で毒性の低いホウ素化合物を用いるため、世界で最も広く使われているクロスカップリング反応です。特に液晶、有機EL材料などの合成、医薬品合成、天然物の全合成(パリトキシンなど)など、実験室レベルから工業レベルまで、極めて広く応用されています。
特別企画: ノーベル賞候補者リスト!(化学賞編)_b0078447_1365226.gif
(図は、有機化学美術館より引用。鈴木カップリングについての非常に分かりやすい解説があります。)

クロスカップリング反応には、他にも、Negishi couplingHagihara-Sonogashira couplingMigita-Kosugi-Stille couplingHiyama couplingNozaki-Hiyama-Kishi (NHK) reactionMizorogi-Heck reaction …などいろいろありますが(こうしてみるとやっぱり日本人多いですね)、有機反応を「使う」立場から言うと、やっぱり鈴木-宮浦カップリングが(今のところ)ベストなのかな、と思います。

そういえば、ちょっと前のScience にアリールカルボン酸を使ったカップリング反応が出ていましたが、あれはどうなんでしょうね。もし汎用性があったらすごいと思いますが…。


・ 辻二郎、Trost


Kyriacos Costa Nicolaou

言わずと知れた、生理活性天然物の全合成研究の権威。おそらく世界で最も有名な現役化学者(のひとり)ではないでしょうか。Taxol の全合成では、Holton らに僅差で(?)先を越されてしまった(有機化学美術館:「タキソール~全合成のドラマ~」より; 僕はてっきりNicolaouの仕事だと思ってました…)ようですが、他にも VancomycinBrevetoxin (赤潮毒の一種)の全合成など有機化学の金字塔とも言える成果をたくさん産み出されています。次は Maitotoxin を狙っているらしいですが…いやはや、すごいですね。

参考: "Nicolau Taxol Total Synthesis" (Wikipedia) ←何かすごい事になってますよ(笑)。


岸義人

海洋天然物などの全合成研究の権威。特にPalytoxin の全合成(1989,1994) はあまりにも有名(化学に関わる人間でこの成果を知らない人は皆無でしょう)。まさに "the greatest synthetic accomplishment ever" ですね。いやー、これは洒落にならない(笑)。神。

特別企画: ノーベル賞候補者リスト!(化学賞編)_b0078447_22212065.jpg

岸教授は、他にも Tetrodotoxin (フグ毒)、Mitomycin C (抗がん剤)などの全合成によって世界的に知られています。「全合成」の分野から今ノーベル賞が出るなら、前述の Nicolaou 教授 や Steven V. Ley 教授 (TPAP酸化などの開発でも有名…らしいです) などと共に、はずせない一人でしょうね。

しかし、こういう研究って…いったいどれくらいの人が関わってるんでしょうね? プロ級の合成化学者がたくさん育ちそうではありますが…。


中西香爾

天然化合物の構造決定および機能解析(構造生物有機化学)の権威。IRやNMRなどの物理化学的分析法を積極的に導入し、Ginkgolide (イチョウ葉の成分)やBrevetoxin (赤潮毒の一種、後にNicolaou らにより合成された)など200以上の化合物の構造を解明。また、自らも光学活性体の絶対立体配置決定法(エキシトンカイラリティ法)などを開発され、天然物の立体構造研究に大きな貢献をされました。視覚の研究(ロドプシンの構造変化)でも有名ですね。

因みに中西先生は、80歳を過ぎた今でも現役でご活躍されているようです(コロンビア大学、中西研)。 化学が好きでたまらないんでしょうね…すごいなあ。


Gilbert Stork

Storkエナミン反応 (ketone の α,β-不飽和カルボニルへの付加反応) を開発。学部の教科書に載ってるくらいの反応なので、ノーベル賞をまだ取っていないと知ってけっこうビックリしました。懐かしいので挙げておきます(笑)


向山光昭

有機合成化学(特に新規反応開拓)の権威。特に向山アルドール反応 〔silyl enol ethers と ルイス酸触媒(四塩化チタンなど)を用いたアルドール付加反応〕 の開発で世界的に有名な方です。また、新規反応の開拓だけでなく、Taxol の全合成(上述)などにも成功されています(世界で5例目、なんと5年で達成)。

向山研は超ハードワークぶりでつとに有名ですが(笑)、その門下からは(光延旺洋氏をはじめ)非常に多くの有機化学者が育っており、まさに「日本有機化学界の父」とも言うべき存在なのだそうです(参考: Wikipedia)。

「絶対にできるんだ、というスピリットを身につけさせるのが僕の仕事」 …なるほど!


David A. Evans

有機合成化学(特に新規反応開拓)の権威。Evans アルドール反応 〔キラル補助基をもつ求核剤を用いた不斉アルドール反応〕 の開発で特に有名です。その他、Mislow-Evans 転位の発見、bis-oxazoline 配位子(BOX)を用いた触媒的不斉反応の開発、などの業績でもよく知られているそうです。なお、トムソンISIの予想では、Steven V. Ley 教授とともに候補に挙がっていました(参考: ケムステニュースの記事)。どうなるんでしょうね。


澤本光男

リビングカチオン重合(ルイス酸触媒によるカチオン精密重合)およびリビングラジカル重合(遷移金属触媒によるラジカル精密重合)を世界で初めて達成(日本人の有機化学系論文で被引用件数第一位; 確か3000回強?だったかな)。ともかく、すごくシンプルで強力な成果だと思います(学部の授業で聞いてもまったく違和感が無かった)。原理はシンプルなほど良いですよね。

一般的な候補かは分からないけど、授業も分かりやすくてわりと好きな先生なので、ぜひノーベル賞でもなんでも取ってもらいたいです。 後期の「高分子生成論」も楽しみ。


Krzysztof Matyjaszewski

Atom Transfer Radical Polymerization (ATRP; フリーラジカルを成長種とするリビングラジカル重合)の開発。本当に「ノーベル賞候補」かは知りませんが(笑)、世界が広がるかもしれないので一応挙げておきます。


Walter Kaminsky, Tobin J. Marks, Maurice S. Brookhart

olefin 重合のための触媒/助触媒開発の第一人者たち。

W. Kaminsky: olefin 重合における "Kaminsky 触媒" 系(4族メタロセン型触媒+助触媒 MAO)の開発。

T. J. Marks: olefin 重合用新規助触媒開発の第一人者。[BPh4]-などの非配位性の陰イオンを助触媒として入れることによってMAO同様な効果が得られることを発見。ランタノイドを用いたメタロセン型触媒などもされているそうです(参考: ケムステニュース←大部分を参考にさせていただきました)。

M. S. Brookhart: olefin 重合における「ポストメタロセン触媒」を世界で初めて開発。メタロセン触媒では作れない構造のpolyolefinを多数合成可能としました。


岡本佳男

らせん構造を有する光学活性ポリマーを世界で初めて合成した、らせん高分子研究の第一人者。極性モノマーの立体規則性ラジカル重合に関する研究でも有名。そして、何と…「光学分割カラム」の開発者! 医薬業界では既に不可欠な「あたりまえ」の技術になってるはず。かなりびっくりしました…。2001年には、"chirality medal" も受賞されています(他の年の受賞者も錚々たる顔ぶれですね)。むべなるかな。


本多健一藤嶋昭 (+ 橋本和仁?)

本多-藤嶋効果(酸化チタンにそのバンドギャップ以上の光を照射することにより、水が水素と酸素に分解する効果)の発見およびその応用研究により、「光触媒」研究という一大分野を創出。特に酸化チタンは、その強い酸化力や超親水作用を利用して、各種抗菌剤・消臭剤・コーティング剤などとして一般に広く利用されています。「光触媒」でGoogle検索すると、それがよく実感できます(笑)。


Frederik Sanger

RNA の配列決定法の開発に対して。リンク先にあるように、史上初の3度目のノーベル賞受賞に最も近い研究者と言われています。やはり 「方法の開発」 ほど学問へのインパクトは大きいみたいですね。


井口洋夫松永義夫

赤松秀雄氏(1910~1988)との共著論文において「有機半導体」の概念を世界に先駆けて提唱(1954年; ぺリレン-臭素系「電荷移動錯体」)、現在隆盛をきわめる「分子エレクトロニクス」の先駆となりました。既に導電性高分子にノーベル賞が出てしまってるけど、より基礎的な成果として受賞もありうるかもしれません。

因みに「電荷移動錯体」としてもっとも有名な "TTF-TCNQ" は、1973年に発見されています(Ferraris, Cowan, Walatka & Perl-stein, 1973; Coleman, Cohen, Sandman, Yamagishi, Garito & Heeger, 1973)。


Denis Jérome, K. Bechgaard

有機超伝導体 (TMTSF)2PF6 を世界で初めて発見。有機伝導体研究の爆発的な発展の原動力となりました。超有名な成果ですが…どうなんでしょう? 参考: "D. Jerome のところに Bechgaard が送った、最初の有機超伝導(TMTSF)2PF6 のサンプル" の写真 ← おお~!


分子磁性体関連

有機強磁性体に関する先駆的研究: 伊藤公一氏による多重項カルベンの発見、岩村秀氏らによる合成高スピンカルベンに関する研究、木下實氏らによる世界初の有機強磁性体の発見(1991年;ニトロキシル系)など(参考: 特定領域「分子スピン」)。
(転移温度が低すぎるなどの理由で)おそらくこの分野からの受賞は無いかなと思いますが、「有機強磁性体」研究という領域が拓かれたことはとても重要なことだと思います(何か生意気な書き方ですが…すいません)。

錯体磁性体の方は、Oliver Kahn が亡くなってしまったから難しいのかな。J. S. Miller による ferrocene-TCNE 系とかも有名ですが…どうなんでしょう?
むしろ基礎的な見地からは、「単分子磁石」 の方が画期的だったのかもしれませんね。受賞したらびっくりですが…。



by jazz-photonic | 2006-09-30 23:59 | Science


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